新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する当院の見解
2021年3月よりCOVID-19により皆さまの生活も少なからず影響を受けていることと思います。そのような中で動物に対する感染がマスコミでもたびたび報じられています。そこで,現時点での当院での見解をお示ししようと思います。
あくまでも当院の見解であり行政や獣医師会などからの公文書ではないことをご理解ください。
はじめに皆さまに理解していただきたい重要なことを書かせていただきます。我々が飼主さまにお示しする病気についての情報は,ほとんどがたくさんの症例を獣医師が分析し論文にまとめ,その中で認められたものを俗に言う『エビデンス』とし信頼できる獣医学情報として提供することが普通です。現在COVID-19について世界で人→動物,動物→人,動物→動物の感染が指摘されており数例の報告があります。しかし,これらは数十例の報告であり9,500万人を超える人の感染者数に対しても数が大変少ないため,先ほど申し上げたエビデンスには至らない情報で正確性には些少の疑問があります。
現時点で我々がお示しできる情報はこうした情報に基づいたものであり,これらの情報は未知のウイルスであるためにどんどん変わっていくことをご理解ください。
人から動物への自然感染として報告されているのは,ネコ・犬・トラ・ライオン・ミンク・ゴリラです。感染実験(ウイルスを人工的に粘膜に塗布する)では,フェレット・ハムスター・サル・にわとり・鴨・ブタ・マウス・コウモリでの感染成立が報告されています。同種間(ネコ→ネコなど)での感染が確認されているのは,ネコ・トラ・ライオン・フェレット・ハムスター・コウモリです。犬同士の感染は今のところ報告されていません。動物から人への感染はオランダでミンクから人への感染が政府から発表されています。いずれも海外で中国・香港・アメリカ・ベルギー・オランダであり日本での報告はありません。自然発生で感染した愛玩動物では軽症もしくは無症状で重症化した例はありません。
ここで皆さまが一番気になるのは動物(ミンク)→人の感染報告だと思います。これは,毛皮のためのミンク飼育施設での事例で閉鎖環境であり密飼いで衛生状態もかなりよくない環境のようです。施設を立ち入り禁止にして施設周りの調査をしたところウイルスの痕跡はなかったとのことです。動物→人の可能性が低い根拠として動物が一度に排出するウイルス量が人に感染させる量に満たないといわれていることがあげられます。ですから,ミンク施設のような劣悪な環境を作らなければ可能性はきわめて低いといわれています。これは,ドイツの国立動物衛生研究所(FLI)・アメリカ疾病予防管理センターからの情報です。(5/27更新)
皆さまが飼っていらっしゃる動物を考えるとネコとフェレットが他の動物と比べると感染しやすい傾向にあり,いまのところ犬は感染するがネコほどではないと理解しています。
さて,我々は何に注意して生活すればいいのでしょうか?
これからはCOVID-19と共存していく生活様式を考えなくてはなりません。もっとも重要なことは我々人間が家にウイルスを持ち帰り動物にうつさないようにするということです。犬猫はジムにも行きませんしナイトクラブにも行きません。家で自粛生活している動物がいきなり感染する可能性はゼロに近いと考えています。対策は人間が手洗いやうがいなど感染に配慮して生活するということ,動物との食べ物などの口移しのような過剰接触を行わないというシンプルなものです。特別なことは何も必要ありません。
次に考えなくてはならないのは『万が一飼主様がCOVID-19に感染してしまった場合に飼っている動物たちをどうするか?』ということです。同居しているご家族がいらっしゃる場合は動かさず今までどおり家で飼育してください。人でCOVID-19は,発症前と発症後5日ほどがもっとも感染能力が高いと云われています。飼主様に感染がわかった時点で,飼っていらっしゃる犬猫に既にうつしてしまっている可能性があります。残念ながら犬猫のPCR検査は現在特殊機関を除いてできません。そんな状況で飼主様が入院しなくてはならなくなったときを考えてみましょう。先ほどもお知らせしたように,犬猫で重症化した例は2020年12月現在ではありません。現時点では家で普通に生活していれば治るとおもわれます。しかしペットホテルなどに預けることでそこが動物のクラスターになり拡散してしまう恐れがあります。従って重症化する可能性の低い動物はできるだけ移動させないということです。
自宅で待機中に動物に鼻水やくしゃみ・咳などの症状が出ている場合はすぐに動物病院に連れて行くのではなく電話でお問い合わせください。可能であればLINEなどでオンライン診察をさせていただきます。
もっとも困るのは『単身者などの飼主様が入院が必要となり,動物の世話をする人がいなくなってしまう場合』です。これに関しては残念ながら現在理想的な手立てはありません。繰り返しになりますがネコの場合はネコの間で広がることがあります。また,人への感染も否定できません。
アメリカの病院マニュアルでは,動物から人へうつることを前提に動物を扱うことになっています。従ってこうした動物を病院が預かる場合は感染隔離病棟がしっかりしており,しかもPPE(フェイスマスク・手袋・使い捨てガウンなど)の脱着訓練を受けた専属スタッフも必要です。病棟の換気も常に行わなくてはならないので病院のご近所の理解も必要です。当然のことではありますが当院に通っていただいている飼主様方にもCOVID-19の疑いがある動物を入院させていることを開示しなくてはなりません。現時点で当院では隣の住宅の距離がほとんど無いこと,他の業務に関与しない専用スタッフを置くと人手不足で一般診療が難しくなることからお預かりすることはできません。
おそらくこれらのことをしっかり守って管理できる動物病院は市内にそれほどないと思います。親戚やお友達の家で預かることも先述の理由から本来行うべきではありません。一番やってはいけないことは『野外に放してしまう』ことです。こうした動物が感染源となり,万が一野良猫の間でCOVID-19が蔓延したら狂犬病予防法のような法律ができ,市が野良猫を捕まえて殺処分することに繋がりかねません。市と獣医師会およびボランティアの方々による活動で名古屋市のネコの殺処分数は劇的に減少しています。自然に減っていくプロジェクトがうまくいっている最中ですからこのようなことで無駄な殺生に繋がることのないためにもどうかご理解をお願いいたします。
現在このような猫ちゃん達を預かることができる施設を関係各所と真剣に協議する事を画策しています。我々もこうした方々のお役に立てるよう努力いたしますので今しばらくお時間をいただければと思います。万が一そのような状況になったしまった場合は電話でご相談ください。その時点で考えられる可能性をいっしょに考えましょう。
最後に大切なことをもう一度書きます。
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動物の感染は世界中でも例が少なく重症化することはいまのところない。
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人→動物,動物→人,動物→動物への感染は少数ではありますが海外で報告されている。密飼いを避け適切な環境で飼育すればこのような心配はほとんどないとされている。(5/27更新)
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飼主様が感染してしまった場合は安易に移動せず家で観察し呼吸器(咳など)や消化器症状(下痢など)がみられた場合はまず病院に電話する。
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絶対に野外に放さない。
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未知のウイルスであるため情報はどんどん変わっていく。
現在日本国内では動物への感染はありません。しかしこの感染症を軽視して扱うとどうなるか3月から4月にかけて我々は身をもって体験しています。COVID-19で動物が感染やその他の理由で命を落とすことがないよう最大限の努力をいたしますのでどうかご理解とご協力をお願いいたします。
2021年1月15日 更新
ワシヅカ獣医科瑞穂病院 鷲塚 章